Text by 中野誠志
水中写真を初めて学ぶ人や、今まで自己流で撮影している方でこれからもっと上達したいと思っている方は、まず最初にこちらを見て下さい。
水中写真を撮るに当たって、私が最初に教えることは「撮れる楽しさや喜び」です。
写真をきれいに撮れると嬉しいし、楽しいですよね。
まずは写真が『写る』ように撮りましょう。
そのため、コンパクトデジタルカメラの初心者にはオートでの撮影を。
ミラーレスやデジタル一眼レフの水中撮影の初心者には絞り・シャッタースピード・Iso感度を揃えたマニュアルモードで数値を固定して、
マクロレンズでのオートフォーカス撮影と、ストロボはTTLオートの組み合わせでの撮影をお勧めしています。
さて、ある程度水中カメラに慣れて、写す喜びや楽しさがわかってきたら、いよいよ水中写真の練習に入りましょう。
水中写真には、昔のフィルム時代には現像から出来上がってこないと撮った仕上がりがわからないという非常に厳しい制約がありました。
海から上がり、写真屋さんにフィルムを出し、現像から戻ってくるまで写真が見れなかったのです。
さらに、現像から戻ってきたフィルムを見ても、水中でノートなどに記録してない限り、どのような設定で水中で撮影したかのデータをこの間にすっかり忘れてしまっているので、失敗写真の反省が活かせないのでした。
そのため、ある意味職人芸のような領域であるフィルムカメラでの水中写真を撮れる人間がプロフェッショナルだったのです。
デジタルカメラになってから、プレビューを見ればどのように記録されたかがすぐその場で確認できます。
失敗写真を元に、成功写真へと逆算していけば、手順とかかる時間の違いこそあれ、誰もが素晴らしい写真を撮れる可能性があります。
正しい手順と勉強をしていけば、およそ3年もあれば完全な初心者から上級者になることができます。
プレビューを活用しましょう。
その撮った写真を元に、もっと良い写真へと修正し、発展させるのです。
今すぐ読みたい方は、こちらの水中写真の効率的な上達方法をどうぞ。
さて、プレビューを活用するにしても、理想の水中写真のイメージが無ければ、現在の写真をどのように改善していけば良いかわからないに違いありません。
これは後日改めて記事にする予定ですが、理想的な水中写真の例として、それを満たす要素の一部をいくつか列挙しておきます。
<理想的な水中写真は>
・水中の生物本来の色が、ストロボなどで鮮やかに再現されている
・写真に奥行きがある
・写真の中を泳いで向こうへ行きたくなる
・写真の完成度を損なう、不要なものが1つも写っていない
・フレーミングが素晴らしい
・浮遊物のハレーションが無い
・ピントが適切である
・メインの被写体が浮き立つように撮影角度や絞りが適切である
・白飛び・黒つぶれが無いか、少ない
・自然を再現している
・生物が活き活きとして写っている
・ダイバーが写っている
・魚が写っている
・作品となっている
これらの理想的な水中写真の前提条件を元に、プレビュー画面を活用し、現場のフィールドでどんどん写真を修正して行ってみて下さい。
前項にあるように、
「魚などの生物本来の色や、鮮やかな海中風景を水中写真で再現する」には、光が充分に差し込む浅いところで撮影するか、フラッシュやストロボ、水中ライトなどの、水中での光源となり失われた色を再現する機材を使用するか、もしくは画像に赤味を補うカラーフィルターが必要になります。
水中撮影における重要な事実
水中という特殊な環境は、陸上で写真を撮るのとは違っていることがいくつかある
水中という環境に適した撮影方法を行う必要があります。
・水中では、間に入る『水』が光を吸収する
上下だけではなく、左右方向でもこの現象は起こります。
水に色を吸収された光は、赤色から順番に色を失っていき、次第に青一色の世界になっていきます。
そのため、良く晴れた日に水深1~2m以内ぐらいの浅い水中で撮影するか、内蔵フラッシュON、オート発光または強制発光、外部ストロボはTTLオートなどで、ムービーの場合は水中ライトやカラーフィルターを使用します。
※ 外付けストロボが届く距離は最大で2m程度、ストロボを利かせるには1m以内でなるべく近づいて撮影します。
※2 内蔵ストロボだけでの撮影では限界が。
光量が弱い、ハレーションが起きるなどです。ぜひ外付けストロボを試してみて下さい。
詳細はライティングの項目にて。
フラッシュやストロボを使用する場合、「カメラ側の操作も含めて適切にちょうど良い光量に調整する必要がある」
最初はカメラのモードはオートにして、フラッシュやストロボの光量調整もオートを推奨。オートにしておけば、カメラやフラッシュが自動でちょうど良く調整してくれます。
被写体とカメラとの間の水の量が多ければ、色以外にも写真のコントラストや、シャープさが失われていきます。
コントラストが失われた写真はのっぺりと平板な印象を受け、シャープさが損なわれた写真はもやっと写ります。
被写体にあまりにもプレッシャーを与えすぎないように配慮しながら、1m以内、なるべく50cm以内まで近づいて撮影しましょう。
近づいて撮影することで、写真における被写体の割合が大きくなります。
魚たちの表情を撮りたければそっと静かに、優しく近づいてみて下さい。
真横から充分近づいて撮影するには被写体が大きすぎる場合、写真に全部を収めることができずはみ出してしまう場合があります。
その場合は人間のポートレートのように上半身だけ切り取って撮影したり、魚の正面から撮影する方法もあります。
こうすると写真に対する大きさの割合が相対的に小さくなりますので、さらに接近しても写真に対してちょうど良い大きさで撮影することができます。
また、別の方法として、焦点距離が短いレンズを使用すると、撮影距離を短縮して同じ大きさに写すことが出来ます。
100ミリマクロレンズなどでAPS-Cのカメラで撮影している場合、被写体を横位置で写す際に撮影距離が遠くなりがちです。
これを60ミリなどのマクロレンズに交換することで、より接近して撮影することが出来ます。
浮遊物が多い海では、被写体との距離が遠いと撮影した画像にハレーションと呼ばれる多数の白い映り込みが入ります。
下の写真は同じ日に、同じスルメイカの子供を撮影した写真です。
撮影した距離が違います。
上の写真は1mほどの距離から撮影、下の写真は20cmほどまで近づいて撮影しています。
被写体に接近することで、間に入る浮遊物を減らすことができると、画像への映り込みは目に見えて少なくなります。
また、接近して大きく撮影することで、被写体本体の魅力を見る人に伝えることも出来ます。
接近すること。
ハレーション対策や作品作りに一番効果がある簡単な方法です。
また、光が充分にあるようなごく浅い場所では、あえてフラッシュやストロボを付けずに、太陽の自然光だけで撮影する方法もあります。
こうすることにより、ハレーションを減らすことも出来ます。
写真のピント位置はどこに合わせたら良いのでしょうか?
基本はメインとなる被写体に合わせるようにします。
ピントが合ってない写真は不完全に感じます。
被写体のどこに合わせるかというと、『目』です。
魚のように目がある被写体は目にピントを合わせ、ウミウシのような被写体は触覚にピントを合わせるのが基本です。
写真の明るさや色味などはパソコンでも多少救済できますが、ピントが合ってない写真を修正するのはかなりの困難を伴います。
ピントは必ず現場で合わせた写真を撮るようにしましょう。
ピントに影響を与える被写界深度は、被写体に近づくにつれてどんどん狭くなっていきます。ピントは近くなるにつれて合わせるのが難しくなるということです。
小さな生き物を撮影する場合は慎重に撮影しましょう。
水中の中層を泳いでいる魚たち以外の生物は、ほとんどが壁や水底にじっと隠れています。
そのまま見たままを撮影すると、生態の紹介写真としては良いのですが、作品としては充分ではありません。
魚と同じ目線で撮影しましょう。
マクロレンズの効果で被写体の前後をぼかすこともでき、被写体に見る人の視線が集中します。
魚と同じ目線で撮影された作品は、写真から魚たちの暮らしや表情まで伝わり、フレンドリーな感じをもたらします。
実際、魚の目線で撮影するようになると、魚たちの気持ちが伝わってくるようで一段と水中写真が楽しくなります。
例えばこんなシチュエーションを想像してみましょう。
海底は緑のサンゴが一面を覆っており、どこにも着底できるところがありません。
しかし、そのサンゴから出たり入ったりしている見たこともないほど美しい鮮やかなハナダイが居ます。
ホースやゲージ類がサンゴに触れないようにBCに固定して、ファインダーを覗きながら完全な中性浮力で、サンゴの10cmほど上に浮かんで横になって撮影します・・・
いかがでしょうか?
これは想像上の話では無く、小笠原の水深40mにあるリュウモンサンゴの群落に住むニラミハナダイという魚が居る場所のシチュエーションです。
他にも、砂やゴミの巻き上げによる映り込み、不用意な接近や動作による魚への威圧、海底を蹴ることによるサンゴや生物の破壊、目前の魚たちの生態行動の意味や知識、被写体を捜索する能力などなど。
自分のダイビングスキルを上達させることで、良い写真を撮るチャンスを増やすことができます。
そのため、初心者のうちは水中写真を撮りながらも、中性浮力を練習してマスターしたり、フィンキックや着底・離底のやり方、生物への近寄り方、撮った後の生物からの離れ方、複数人数での水中写真の撮り方やマナーなどを総合的に練習して学んでいく必要があります。
ダイビングをすると、通常はエントリーしてぐるっと一回りして帰ってくるかと思います。
生物の生態に詳しいダイビングガイドと一緒に潜ることで、その1本のダイビングの流れの中で、隠れている小さな生物を発見したり、産卵などのシャッターチャンスを増やすことが出来ます。
特に、その現地の海に精通した現地ガイドと呼ばれる人たちは、そうした能力に長けている人が多いです。
一例として、私も所属しているガイド会をご紹介します。
世界各地の海で活躍する30人以上の現地ガイドの組織です。
もちろん、他にもベテラン、一流のガイドは各地に居ると思いますので、調べてみて下さい。
ダイビング後は、きれいな真水を桶などに貯めて、その中にカメラを浸けます。
プッシュボタンなど海水が浸入しているところは、その真水の中で何回か押しておくと金属シャフトやスプリングのサビや潮ガミを防ぐことが出来ます。
桶の水が汚れていたり、海水が混ざっているようだったら水道の流水を使って洗います。
潜る直前にカメラのセッティングというのは、なかなか慌ただしいものです。
もし人を待たせていたりするとさらに焦ってしまいます。
そんな状況でセッティングすると水没の危険性は飛躍的に高まります。
Oリングにゴミや髪の毛が挟まっていても気づかないことがあります。
実は私も何度もカメラに浸水させてしまっており、しかも完全水没も1回やってます。
水中で髪の毛がカメラのハウジングの合わせ目から「にょきっ」とはみ出しているのに気づいたこともあります。
さすがに最近では滅多にそんなこともありませんが、私のおすすめは前夜のうちに明るい場所でセッティングしておくことです。
そうすることで朝から時間と気持ちに余裕を持って、当日のダイビングの水中写真の事を考えながら楽しむことができます。
ぜひ、これからの水中写真撮影をたくさん楽しんでいって下さい!!
カメラや水中写真についての専門用語集はこちらをどうぞ。
撮影に当たっての心構えやヒントはこちら。
より詳細なテクニックや理論などは、こちらの水中撮影テクニックをどうぞ。
Text by 中野誠志